記事下に出る広告は忍者ブログの仕様でブログ主は関与していません。背景画像はアメリカ国内で行われたTPP反対行進写真です。(TPPとは「自動車」「郵政」「農業」「医薬品・医療機器」などが含まれる「投資」「金融」「通信」「工業」などをはじめとする24もの部会がある原則関税撤廃というルールと交渉内容は非公開の合意のある、初めはニュージーランドなどの小さな国がやっていた貿易協定でしたが2008年から事実上米国が乗っ取って主導権を握り、参加国と米国だけは保護主義で、一方的に自由化を求める米国との過酷なFTA状態になっているものです。)
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【第28回】 2011年10月24日
著者・コラム紹介バックナンバー
中野剛志 [京都大学大学院工学研究科准教授]
TPP交渉に参加するのか否か、11月上旬に開催されるAPECまでに結論が出される。国民には協定に関する充分な情報ももたらされないまま、政府は交渉のテーブルにつこうとしている模様だ。しかし、先に合意した米韓FTAをよく分析すべきである。TPPと米韓FTAは前提や条件が似通っており、韓国が飲んだ不利益をみればTPPで被るであろう日本のデメリットは明らかだ。
TPP(環太平洋経済連携協定)の交渉参加についての結論が、11月上旬までに出される。大詰めの状況にありながら、TPPに関する情報は不足している。政府はこの点を認めつつも、本音では議論も説明もするつもりなどなさそうだ。
しかし、TPPの正体を知る上で格好の分析対象がある。TPP推進論者が羨望する米韓FTA(自由貿易協定)である。米韓FTAが参考になるのは
TPPが実質的には日米FTAだから
なぜ比較対象にふさわしいのか?
まずTPPは、日本が参加した場合、交渉参加国の経済規模のシェアが日米で9割を占めるから、多国間協定とは名ばかりで、実質的には“日米FTA”とみなすことができる。また、米韓FTAもTPPと同じように、関税の完全撤廃という急進的な貿易自由化を目指していたし、取り扱われる分野の範囲が物品だけでなく、金融、投資、政府調達、労働、環境など、広くカバーしている点も同じだ。
そして何より、TPP推進論者は「ライバルの韓国が米韓FTAに合意したのだから、日本も乗り遅れるな」と煽ってきた。その米韓FTAを見れば、TPPへの参加が日本に何をもたらすかが、分かるはずだ。
だが政府もTPP推進論者も、米韓FTAの具体的な内容について、一向に触れようとはしない。その理由は簡単で、米韓FTAは、韓国にとって極めて不利な結果に終わったからである。
では、米韓FTAの無残な結末を、日本の置かれた状況と対比しながら見てみよう。韓国は無意味な関税撤廃の代償に
環境基準など米国製品への適用緩和を飲まされた
まず、韓国は、何を得たか。もちろん、米国での関税の撤廃である。
しかし、韓国が輸出できそうな工業製品についての米国の関税は、既に充分低い。例えば、自動車はわずか2.5%、テレビは5%程度しかないのだ。しかも、この米国の2.5%の自動車関税の撤廃は、もし米国製自動車の販売や流通に深刻な影響を及ぼすと米国の企業が判断した場合は、無効になるという条件が付いている。
そもそも韓国は、自動車も電気電子製品も既に、米国における現地生産を進めているから、関税の存在は企業競争力とは殆ど関係がない。これは、言うまでもなく日本も同じである。グローバル化によって海外生産が進んだ現在、製造業の競争力は、関税ではなく通貨の価値で決まるのだ。すなわち、韓国企業の競争力は、昨今のウォン安のおかげであり、日本の輸出企業の不振は円高のせいだ。もはや関税は、問題ではない。
さて、韓国は、この無意味な関税撤廃の代償として、自国の自動車市場に米国企業が参入しやすいように、制度を変更することを迫られた。米国の自動車業界が、米韓FTAによる関税撤廃を飲む見返りを米国政府に要求したからだ。
その結果、韓国は、排出量基準設定について米国の方式を導入するとともに、韓国に輸入される米国産自動車に対して課せられる排出ガス診断装置の装着義務や安全基準認証などについて、一定の義務を免除することになった。つまり、自動車の環境や安全を韓国の基準で守ることができなくなったのだ。また、米国の自動車メーカーが競争力をもつ大型車の税負担をより軽減することにもなった。
米国通商代表部は、日本にも、自動車市場の参入障壁の撤廃を求めている。エコカー減税など、米国産自動車が苦手な環境対策のことだ。コメの自由化は一時的に逃れても
今後こじ開けられる可能性大
農産品についてはどうか。
韓国は、コメの自由化は逃れたが、それ以外は実質的に全て自由化することになった。海外生産を進めている製造業にとって関税は無意味だが、農業を保護するためには依然として重要だ。従って、製造業を守りたい米国と、農業を守りたい韓国が、お互いに関税を撤廃したら、結果は韓国に不利になるだけに終わる。これは、日本も同じである。
しかも、唯一自由化を逃れたコメについては、米国最大のコメの産地であるアーカンソー州選出のクロフォード議員が不満を表明している。カーク通商代表も、今後、韓国のコメ市場をこじ開ける努力をし、また今後の通商交渉では例外品目は設けないと応えている。つまり、TPP交渉では、コメも例外にはならないということだ。
このほか、韓国は法務・会計・税務サービスについて、米国人が韓国で事務所を開設しやすいような制度に変えさせられた。知的財産権制度は、米国の要求をすべて飲んだ。その結果、例えば米国企業が、韓国のウェブサイトを閉鎖することができるようになった。医薬品については、米国の医薬品メーカーが、自社の医薬品の薬価が低く決定された場合、これを不服として韓国政府に見直しを求めることが可能になる制度が設けられた。
農業協同組合や水産業協同組合、郵便局、信用金庫の提供する保険サービスは、米国の要求通り、協定の発効後、3年以内に一般の民間保険と同じ扱いになることが決まった。そもそも、共済というものは、職業や居住地などある共通点を持った人々が資金を出し合うことで、何かあったときにその資金の中から保障を行う相互扶助事業である。それが解体させられ、助け合いのための資金が米国の保険会社に吸収される道を開いてしまったのだ。
米国は、日本の簡易保険と共済に対しても、同じ要求を既に突きつけて来ている。日本の保険市場は米国の次に大きいのだから、米国は韓国以上に日本の保険市場を欲しがっているのだ。米韓FTAに忍ばされた
ラチェット規定やISD条項の怖さ
さらに米韓FTAには、いくつか恐ろしい仕掛けがある。
その一つが、「ラチェット規定」だ。
ラチェットとは、一方にしか動かない爪歯車を指す。ラチェット規定はすなわち、現状の自由化よりも後退を許さないという規定である。
締約国が、後で何らかの事情により、市場開放をし過ぎたと思っても、規制を強化することが許されない規定なのだ。このラチェット規定が入っている分野をみると、例えば銀行、保険、法務、特許、会計、電力・ガス、宅配、電気通信、建設サービス、流通、高等教育、医療機器、航空輸送など多岐にわたる。どれも米国企業に有利な分野ばかりである。
加えて、今後、韓国が他の国とFTAを締結した場合、その条件が米国に対する条件よりも有利な場合は、米国にも同じ条件を適用しなければならないという規定まで入れられた。
もう一つ特筆すべきは、韓国が、ISD(「国家と投資家の間の紛争解決手続き」)条項を飲まされていることである。
このISDとは、ある国家が自国の公共も利益のために制定した政策によって、海外の投資家が不利益を被った場合には、世界銀行傘下の「国際投資紛争解決センター」という第三者機関に訴えることができる制度である。
しかし、このISD条項には次のような問題点が指摘されている。
ISD条項に基づいて投資家が政府を訴えた場合、数名の仲裁人がこれを審査する。しかし審理の関心は、あくまで「政府の政策が投資家にどれくらいの被害を与えたか」という点だけに向けられ、「その政策が公共の利益のために必要なものかどうか」は考慮されない。その上、この審査は非公開で行われるため不透明であり、判例の拘束を受けないので結果が予測不可能である。
また、この審査の結果に不服があっても上訴できない。仮に審査結果に法解釈の誤りがあったとしても、国の司法機関は、これを是正することができないのである。しかも信じがたいことに、米韓FTAの場合には、このISD条項は韓国にだけ適用されるのである。
このISD条項は、米国とカナダとメキシコの自由貿易協定であるNAFTA(北米自由貿易協定)において導入された。その結果、国家主権が犯される事態がつぎつぎと引き起こされている。
たとえばカナダでは、ある神経性物質の燃料への使用を禁止していた。同様の規制は、ヨーロッパや米国のほとんどの州にある。ところが、米国のある燃料企業が、この規制で不利益を被ったとして、ISD条項に基づいてカナダ政府を訴えた。そして審査の結果、カナダ政府は敗訴し、巨額の賠償金を支払った上、この規制を撤廃せざるを得なくなった。
また、ある米国の廃棄物処理業者が、カナダで処理をした廃棄物(PCB)を米国国内に輸送してリサイクルする計画を立てたところ、カナダ政府は環境上の理由から米国への廃棄物の輸出を一定期間禁止した。これに対し、米国の廃棄物処理業者はISD条項に従ってカナダ政府を提訴し、カナダ政府は823万ドルの賠償を支払わなければならなくなった。
メキシコでは、地方自治体がある米国企業による有害物質の埋め立て計画の危険性を考慮して、その許可を取り消した。すると、この米国企業はメキシコ政府を訴え、1670万ドルの賠償金を獲得することに成功したのである。
要するに、ISD条項とは、各国が自国民の安全、健康、福祉、環境を、自分たちの国の基準で決められなくする「治外法権」規定なのである。気の毒に、韓国はこの条項を受け入れさせられたのだ。
このISD条項に基づく紛争の件数は、1990年代以降激増し、その累積件数は200を越えている。このため、ヨーク大学のスティーブン・ギルやロンドン大学のガス・ヴァン・ハーテンなど多くの識者が、このISD条項は、グローバル企業が各国の主権そして民主主義を侵害することを認めるものだ、と問題視している。ISD条項は毒まんじゅうと知らず
進んで入れようとする日本政府の愚
米国はTPP交渉に参加した際に、新たに投資の作業部会を設けさせた。米国の狙いは、このISD条項をねじ込み、自国企業がその投資と訴訟のテクニックを駆使して儲けることなのだ。日本はISD条項を断固として拒否しなければならない。
ところが信じがたいことに、政府は「我が国が確保したい主なルール」の中にこのISD条項を入れているのである(民主党経済連携プロジェクトチームの資料http://www.npu.go.jp/policy/policy08/pdf/20111014/20111021_1.pdf)。
その理由は、日本企業がTPP参加国に進出した場合に、進出先の国の政策によって不利益を被った際の問題解決として使えるからだという。しかし、グローバル企業の利益のために、他国の主権(民主国家なら国民主権)を侵害するなどということは、許されるべきではない。
それ以上に、愚かしいのは、日本政府の方がグローバル企業、特にアメリカ企業に訴えられて、国民主権を侵害されるリスクを軽視していることだ。
政府やTPP推進論者は、「交渉に参加して、ルールを有利にすればよい」「不利になる事項については、譲らなければよい」などと言い募り、「まずは交渉のテーブルに着くべきだ」などと言ってきた。しかし、TPPの交渉で日本が得られるものなど、たかが知れているのに対し、守らなければならないものは数多くある。そのような防戦一方の交渉がどんな結末になるかは、TPP推進論者が羨望する米韓FTAの結果をみれば明らかだ。 それどころか、政府は、日本の国益を著しく損なうISD条項の導入をむしろ望んでいるのである。こうなると、もはや、情報を入手するとか交渉を有利にするといったレベルの問題ではない。日本政府は、自国の国益とは何かを判断する能力すら欠いているのだ。野田首相は韓国大統領さながらに
米国から歓迎されれば満足なのか
米韓FTAについて、オバマ大統領は一般教書演説で「米国の雇用は7万人増える」と凱歌をあげた。米国の雇用が7万人増えたということは、要するに、韓国の雇用を7万人奪ったということだ。
他方、前大統領政策企画秘書官のチョン・テイン氏は「主要な争点において、われわれが得たものは何もない。米国が要求することは、ほとんど一つ残らず全て譲歩してやった」と嘆いている。このように無残に終わった米韓FTAであるが、韓国国民は、殆ど情報を知らされていなかったと言われている。この状況も、現在の日本とそっくりである。
オバマ大統領は、李明博韓国大統領を国賓として招き、盛大に歓迎してみせた。TPP推進論者はこれを羨ましがり、日本もTPPに参加して日米関係を改善すべきだと煽っている。
しかし、これだけ自国の国益を米国に差し出したのだから、韓国大統領が米国に歓迎されるのも当然である。日本もTPPに参加したら、野田首相もアメリカから国賓扱いでもてなされることだろう。そして政府やマス・メディアは、「日米関係が改善した」と喜ぶのだ。だが、この度し難い愚かさの代償は、とてつもなく大きい。
それなのに、現状はどうか。政府も大手マス・メディアも、すでに1年前からTPP交渉参加という結論ありきで進んでいる。11月のAPECを目前に、方針転換するどころか、議論をする気もないし、国民に説明する気すらない。国というものは、こうやって衰退していくのだ。
TPP 首相は参加決断の時だ 根拠なき不安の払拭に全力を2011.10.26 03:00 [主張]
野田佳彦首相には今こそ、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加を決断し、明言してもらいたい。
参加への反対論や慎重論は激しさを増している。それだけに、首相が自ら最前線に立って参加の意義とメリットを語り、疑問や不安を払拭しなければ、混迷は深まるばかりだ。
貿易立国として繁栄していくことが日本の通商政策の根幹であり、国家ビジョンそのものでもある。TPP参加に、より多くの国民の理解を得ることが最高指導者としての責務である。
問われているのは首相の覚悟である。首相は25日の「食と農林漁業の再生推進本部」で、「高いレベルの経済連携と農林漁業再生の両立を図るため、政府を挙げて全力で取り組んでいかなければならない」と語った。
20日には「完全にルールが決まって入っていくと、むしろハードルが高い可能性がある」と述べている。「結論はまだ決まっていない」といった以前の発言より交渉参加に前向きな姿勢を示しているが、腰はまだ定まっていない。11月12、13日に米ハワイで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で、米国などはTPPの大枠合意を目指す。日本に残された時間は少ない。
◆日米同盟が強化される
多くの関連業界の中でも全国農業協同組合中央会(JA全中)の反発は激しい。「参加すれば日本農業は壊滅する」と、交渉参加反対を訴える「請願書」を衆参両院の国会議員356人を通じて提出した。民主党内でも「TPPを慎重に考える会」への賛同者が200人に上っている。
こうした反対論に政府・与党は揺れている。前原誠司政調会長が慎重派への配慮から「交渉参加後の離脱もあり得る」と発言した。中途半端な姿勢では、混乱が増すばかりだ。
TPP参加はアジア・太平洋地域の成長を取り込み、日本企業の国際競争力強化に役立つ。さらに日米同盟を強化する意味合いもある。レアアース(希土類)の輸出制限など国際ルールを無視し、独善的な行動が目立つ中国に対する牽制(けんせい)にもつながるからだ。中国が陰に陽に日本のTPP不参加を働きかけている意図がどこにあるかを考えるべきだ。
一方、参加しなければ、米国などへの輸出が関税の分だけ不利になる。製造業が生産拠点をTPP参加国に移せば、超円高で加速する産業の空洞化に拍車がかかり、雇用が失われる懸念がある。
デメリットは米国と自由貿易協定(FTA)を締結した韓国と比べれば明らかだ。韓国の自動車は5年後に関税ゼロで米国に輸出できるようになるが、日本車はトラックだと25%の関税がかかったままだ。韓国は米韓FTAをアピールし、日本の自動車メーカーに韓国立地を呼びかけている。
◆自民党のぶれも問題だ
関税以外にも農業や医療、食の安全、労働など幅広い分野がTPPの対象になる。反対派が業界や国民の間に広げている根拠のない不安をなくすべきだ。
医療分野に関し、医師会などは保険診療と自由診療を併用する混合診療の解禁で「国民皆保険制度が崩壊しかねない」と主張するが、現交渉では混合診療や公的医療保険制度は議論の対象外だ。
遺伝子組み換え食品や食品添加物などの安全基準に消費者団体が懸念を示している点は、国内基準の優先を世界貿易機関(WTO)ルールが認めている。「雇用が奪われる」と恐れる労働問題では、単純労働者の流入はもちろん、医師や弁護士などの専門家も含め日本が主体的に規制できる。
金融、電気通信など、TPP内のルールが国際標準になりそうな分野もある。日本抜きでルールが決まる不利な状況を避けるためにも、早くルール作りに加わって国益を守った方が得策だ。
JA全中は与野党各党に反対を強く働きかけているが、選挙支援が絡んで地方選出の国会議員は農業団体に弱い。
自民党の谷垣禎一総裁は「協議しながら国益に適(かな)うかを判断すべきだ」と交渉参加に前向きだったが、異論が出ると「慌てて入っていくのは外交的失敗だ」と軌道修正した。重要政策を国益を最優先する立場からなぜ決めようとしないのか。民主、自民両党に問われているのはこのことだ。
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